阪神園芸株式会社 山田 隼の仕事
景観だけではない、みどりの“効果”を多くの人に伝えていきたい。
神戸・大阪地区を中心に、官庁施設や、商業施設・マンション・個人宅などの民間施設の維持管理、施設の新築・改修に伴う造園関係工事の施工管理などを担当しています。入社して約10年の間にさまざまな現場に携わりましたが、特に2022年2月に竣工した大阪市北区の大阪梅田ツインタワーズ・サウスの緑化工事は、会社にとっても私にとっても大きな挑戦となりました。
まず、工事や維持管理に新しい仕組みを導入しました。一般的に、施設内の屋上緑化や壁面緑化などの「みどり」はオーナー様が資産として保有し、造園会社はゼネコンなど施設の建設を担う会社から施工を請け負い、竣工後は施設管理会社から維持管理を受託します。ただ、時が経つにつれて維持管理費が削減されるなど、当初の設計に込められた思いを継承できないことは多々あり、私もそういった「みどり」を数多く見てきました。そこで今回は、造園会社である当社が「みどり」を保有する仕組みに。まず当社が投資として設計・施工を行い、オーナー様の建設費を軽減。そして竣工後の維持管理費用も長期にわたって平準化することを取り決め、持続可能で高品質な景観を維持できるようにしました。これは竣工がゴールではない「みどり」だからこそできることです。
私自身は竣工の6年前から設計検討と施工に加わり、設計検討では施工や維持管理が可能かどうか検討することを主に担当しました。中でも壁面緑化は大部分が北側に面しており、机上の検討では行き詰まることばかり。そのため実寸のサンプルを作成し、土壌の水分や温度の測定、日照時間の比較などを本社で2〜3年、現場でも2年弱かけて何度も実験。その結果をもとに最適な樹種を選んで配置を決め、スマートフォンと連動して自動で水を与える独自のシステムなどもつくりました。
こうした長期間の設計を経て、次は大阪・キタのど真ん中での施工に。店舗の営業時間や交通量の多い道路の規制の関係から昼夜体制となり、私は施工管理としてビルのオーナー様、建築工事を行うゼネコン、所轄官庁などとの綿密な調整を行いました。さらに、竣工書類と資産保有に伴う膨大な資料類の作成もチームで行い、精神的にも体力的にも大変な業務となりました。その分、無事に竣工を迎え、完成した「みどり」を見上げた時の達成感は今も忘れられません。
今回のように、プロジェクトの最初から設計・施工・維持管理の部門が一体となって進めることも会社として初めてでした。私も普段は主に維持管理を担当しているので、業務は竣工後に始まることがほとんど。しかし今回は、設計段階から維持することを考えるという貴重な経験ができました。これまでにない多様な視点が必要で、「みどり」の奥深さを改めて実感しましたね。また、こうした大きなプロジェクトの際には、九州や北関東の樹木の生産地へ行って使用する樹木を自分で一本一本選び、現場まで運びます。生産者さんが丹精を込めて育てた樹木を使わせていただき、枯らさず維持していくことに、多くの人の思いや苦労を背負う責任を感じます。竣工時の関係者の満足そうな笑顔はもちろんうれしく、生産者さんや協力業者のみなさんの先頭に立って仕事ができることにも大きなやりがいがあります。今後は樹木の成長が進んでいくのが楽しみですし、高品質な維持管理に加え、この場所をもっと多くの方に認知していただけるようなPR活動にも取り組んでいきたいです。
実は、私に大阪梅田ツインタワーズ・サウスのプロジェクトに入らないかと声をかけてくれたのは、入社時からお世話になっていた社内の修成の先輩でした。他に、協力会社にも修成の卒業生がいるなど、強い結びつきがあるのが修成の魅力です。学生時代には、学生スタッフや授業でのプレゼンなどを通して「相手にわかりやすく、そして興味を持ってもらうためにどう伝えるか」を数多く経験し、現在も人前で話す際に大いに生きています。さらに実際に樹木を剪定したり重機に乗ったりした経験も現場で役立っていますね。当社に入社できたのも、修成に求人があったからこそ。今の私があるのは、すべて修成のおかげだと思います。
私は現在、主に大阪の都市部で業務を行っていますが、都市部は人々の動線が地下中心になりがちです。そこで今後は地上のみどり空間を増やして人々に安らぎを与えるとともに、温度や二酸化炭素の削減など景観だけではない”効果“の部分をデータとして見える化し、多くの人に知っていただくことを目標にしています。そういった取り組みから、環境問題に貢献する造園業界のイメージアップにつなげ、注目される業界にしていきたいですね。近年はICT技術の進歩で格段に業務が効率化され、働き方も大きく変わりました。造園業界の素晴らしい技術力とともに、これまでとは違うイメージを多くの人に認識してもらえるように頑張りたいです。造園の仕事は竣工がゴールではなく、手がけた樹木が時間をかけて育つ楽しみがあります。これは建設業界でも他にはない魅力であり、長く続けることでこそわかるやりがいもたくさんあるので、ぜひ挑戦していただきたいです。
Works 01 大阪梅田ツインタワーズ・サウス
大阪の中心・梅田の一等地にあるビルの外装壁面及び屋上広場の緑化プロジェクト。阪神電車・阪急電車沿線の六甲山系や淀川水系で見られる在来種を主体に、季節の移ろいを感じられる約100種類の樹種で構成した。
Works 02 ザ・リッツ・カールトン大阪5F屋上庭園
花の香りが年中絶えない中国風庭園や、紅葉が美しいモミジを中心とした日本庭園、カラーリーフや季節の花々で彩るブライダルやイベントでの利用が可能な空間など、各エリアの利用イメージに合わせた樹種を選んだ。
Works 03 シスメックス株式会社 グローバルコミュニケーションセンター
芦屋・奥池地区邸宅街の風景を継承し、施設から奥池への眺めを意識した植栽構成。風格ある三日月状の池周りの腰石積は既設のままとし、春には桜の広場でのお花見、冬には雪景色も楽しめる空間となっている。
Profile
阪神園芸株式会社
山田 隼 造園施工管理技士
2013年3月、修成建設専門学校ガーデンデザイン学科卒業後、阪神園芸(株)に入社。緑地管理部で自治体発注の緑地維持工事や民間の緑化施設の維持管理、新築・改築などの建設工事に伴う造園関係工事の施工管理に従事。その後得意先の営業窓口として見積依頼への対応や緑地の改修提案、社内業務を並行しながら各現場の業務も担当。一級造園施工管理技士。