水害から街を守る、地域住民待望の水門工事。

株式会社 竹中土木/相長川水門築造工事(京都府福知山市)

これまで何度も被害にあっている浸水への対策として決まった、水門と堤防の整備事業。(株)竹中土木は地元の協力企業・職人さんたちをまとめ、工事を安全・スムーズに進める役割を担う。

今回の工事の主な役割

(株)竹中土木の担当

株式会社 竹中土木大阪本店 
作業所所長 近藤 俊弘さん

今回の相長川水門築造工事の作業所長。これまで土地造成や、高速道路、地下鉄建設など大小合わせて18の現場を経験。土木の世界に入って35年の大ベテランに、土木の仕事の中身はもちろん、魅力ややりがいについても語っていただいた。


地域の安心と安全のために、
最善の方法を探りながら進行。

この水門の目的は、由良川が増水した際、由良川から逆流を遮断することにより、浸水被害を防ぐことです。同時に整備している堤防は、想定される最大の増水時でも十分耐えられる高さに設計されています。水門の工事は、地盤を掘削し、大きな構造物が載っても大丈夫なように地盤改良を行い、さらに地盤を掘り下げて、地下で水を遮るための矢板を入れました。その後、構造物本体の鉄筋を組み、型枠を組んでコンクリートを打設。当社の担当はこの構造物をつくるところまでで、水門のゲートや上屋は別の企業が施工することになっています。発注者が国土交通省(以下、国交省)の工事の場合、設計と施工は別の会社で行います。この工事は、建設コンサルタント会社が設計した図面をもとに行っています。設計通りの工事ができるかどうかの検証や調査は私たちの仕事で、できるならそのまま工事をはじめ、難しければ異なる工法を提案して協議をします。この現場でも、掘削してみると土の状態が想定とちがっていたため、計画をそのまま実行するのは難しく、手を加えながら計画された工法を実施しました。土木は自然を相手にする仕事なので、どれだけ調査をしても実際にやってみないとわからないことがたくさんあります。計画とちがうことが起きたときにどう対処するかが難しくもあり、経験が生きるところでもあります。

直近では平成25年の台風18号による豪雨で浸水し、大きな被害が出た。
●由良川
由良川の上流部は渓谷にあるため勾配が急で流れが速いが、今回工事を行っている福知山盆地を流れる中流部では川幅が広く、勾配も緩いため、流れが遅い。下流部へ行くと川幅が狭まり勾配もさらに緩くなるため、上流部から流れる水が中流部でたまりやすい地形となっている。
●相長川(あいおさがわ)
今回の記事にある相長川は由良川の中流域に合流する川。洪水時、相長川より大きい由良川の水位が高くなると、相長川の水が流れにくくなり、水位が上昇して付近が浸水する被害が起きる。
<工事の概要図>
この工事は、由良川の堤防をつくる工事に合わせ、由良川と相長川の合流部に水門をつくるものである。川底を掘削して川幅を広げ、蛇行している相長川をまっすぐに付け替えて水門を設置。堤防などすべてが完成して使えるようになるのは平成30年の予定となっている。

工程、安全、品質など工事全体の
管理を行う施工管理。

当社が行っているのは、主に「施工管理」と呼ばれる仕事で、工事全体のマネジメントをしています。たとえば、水門本体をつくっていた時期には約80人がこの現場で働いていましたが、大勢がスムーズに作業できる段取りを行うのが施工管理の大切な仕事です。私はこの現場の所長として、現場で働く協力会社の職員さん、当社の職員、国交省、地元との調整を日々行っています。この現場の場合、水門より上流側は京都府発注の別工事で、当社が担当している水門や由良川の整備は国交省が発注している工事。作業が重なることもあるため、国交省と京都府それぞれの施工業者が集まって調整会議を行い、工事を進めていきます。所長として現場で第一に心がけているのは、やはり安全です。特にこの現場は由良川が増水することで災害が発生しやすく、気を配らなければなりません。基本的に、午前中1回、午後1回は必ず現場を巡回し、前日に打合せをした作業の手順や注意点が守られているかを中心に確認します。また、この現場では、毎日の打合せ、週1回の工程確認、月に1回の工程確認があり、発注者である国交省とも週1回の打合せがあります。現場を適切に管理するためには、それだけ確認事項が多いのです。工期が遅れたり早まったり、計画の変更もあります。計画を変更する場合でも、なるべく工事を止めずに進められるよう、次の案まで考えて話をすることが大切です。

<水門完成予想図・横から見た図>
操作台まで21m、地中に隠れている基礎部分が3.6mと、巨大なコンクリートの構造物。普段はゲートを開けている状態で相長川が由良川に注ぐ。由良川が増水するとゲートを閉め、逆流を防ぐ仕組みになっている。これぐらい重厚につくらなければ、水圧には耐えられない。

この大きな水門ができあがれば、地域住民のみなさんも安心できる。

雨、増水。
自然を相手にする仕事の難しさ。

土木の難しい点は、やはり自然を相手にしていることです。天候に左右されやすく、この現場では特に、大雨や増水に気をつけなければなりません。雨が降って由良川の水位が上がると、締切りをしているものの下から水が入ってきて、現場が水没してしまいます。この水門をつくっている時も数回水に浸かり、1週間ほど作業ができなかったことがありました。川は6月から10月が出水期、11月から5月が非出水期となっています。川の中の工事は非出水期間にしかできないので、その間に日々工程を縮めて遅れを取り戻すようにしています。一方、川の外では長期の天気予報を見ながらダンプの数を増やすなどして、天気のいい日にできるだけ工程を前倒しします。このダンプや重機の手配も、施工管理の仕事です。工期の終わりは決まっていますので、工事の遅れも見越したうえで日々の段取りをしなければなりません。

普段は穏やかで美しい由良川。ひとたび増水すると濁流が押し寄せる。

美しい環境と住民の安全、
両方を守るために。

由良川は、アユが有名な清流です。しかし、工事中は濁った水が出やすいので、放流する前に池をつくり、濁った水を特殊なフィルターを通して濁りをなくしてから放流しています。他にも、濁水処理プラントを用いてアルカリ成分を調整した環境にやさしい水を放流しています。構造物をつくるだけではなく、こうした工夫をするのも施工管理の仕事といえます。また、周辺の住民のみなさまへの説明も大事な仕事。この現場では、書面での工事についての説明のほかに、見学会を行って進捗状況を見ていただき、水門や川の付け替えについての理解を深めていただきました。住民のみなさんと対話することで、期待を寄せていただいていることを実感し、改めてこの工事の意義の大きさを感じました。

<現場見学会>
地域住民のみなさんに現場を見学していただき、対話する機会を設けている。

つくったものが残る、人の役に立つ。
これこそ土木の大きなやりがい。

私は土木の仕事をして35年になります。子どもの頃、新幹線が開通したり、大きな橋やトンネルが全国各地でできたりと、大きなものが次々にできるのを日々ニュースで目にしていた年代で、これからは社会資本を整備する土木の時代だと考え、土木の世界に入りました。やはり、自分が工事に携わったものが形として残る達成感は計り知れません。また、家族に自分のつくったものを自慢できるのもうれしいものです。橋や水門、道路の舗装など、土木は生活に密着し、みなさんの役に立っています。その点も大きな魅力ですね。さらに、さまざまな土地に行って、その場所の条件に合わせて現地生産をするのも土木の特徴です。水門とひと口に言っても、まったく同じものはありません。多様な経験ができるところがおもしろく、やりがいがあると思います。私もこれまで経験した現場のすべてが印象に残っています。

水門本体横にある車と比べてみても、非常に大きな構造物だということがひと目でわかる。

つくって、維持する。
まだまだ広がる土木のこれから。

東北の復興や、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、土木分野は忙しい時期が続くでしょう。さらに、これまで整備してきたインフラの更新も大切な仕事になります。最近は被害をもたらすような異常気象もたびたび起こっていますが、そういったことから人々の安全を守るのも土木の仕事といえます。今回の水門の工事は、まさにそういう種類の仕事。土木の仕事がなくなることはありませんし、これからも新しい技術が生まれていくでしょう。若いみなさんにも、まだまだ、新しいことができる機会がたくさんあります。ぜひ、奥深い土木の世界に一歩を踏み出してください。

株式会社 竹中土木

1941年の創立以来、土木を専業とし『最良の作品を世に遺し、社会に貢献する』という経営理念を掲げる。また、近年の社会環境の変化、建設業に求められる機能や責任の多様化を踏まえ、「地球環境と共生するグリーンインフラ分野への継続的な取り組み」を2025年ビジョンとして策定。土木構造物の長寿命化、自然共生のまちづくりなどをめざす。コーポレートメッセージは『人と地球の架け橋に』。 WEBサイト:https://www.takenaka-doboku.co.jp/

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