浸水被害のない、安全な街をめざす下水道管整備。

吹田市/吹田市公共下水道事業 岸部幹線整備工事第1工区

吹田市役所は「起業者」の立場。工事の予定価格を決めて入札を実施し、条件に合致する会社が応札・受注するという流れ。実際の施工を行うのは受注した工事施工者で、吹田市役所は工事施工者と密にコミュニケーションを取りながら、警察や道路管理者、沿道の住民など多数の関係者との協議や必要な申請を行うほか、工事の進捗など全体を把握してプロジェクトを進めていく。

吹田市 下水道部 管路保全室(整備担当) 
北方 雄貴さん

2022年に入庁し、今回の工事を担当。工事の特徴や関係各所とのやり取り、現場での工夫、土木業界の魅力などを語っていただいた。


10年に1度の大雨から地域を守る
新たな下水道管を整備。

現在私が担当しているのは、大阪府吹田市の岸部幹線と呼ばれる下水道管の整備工事です。現状の下水道管では大雨が降った際に雨水をすべて排水できず、周辺地域が浸水する恐れがあるため、10年に1度の大雨にも耐えられるように新しい下水道管を整備しています。2010年に施工の検討業務を発注し、その後詳細な設計などを行って2022年度に工事開始。私は2022年に入庁し、発注の段階から担当になりました。
工事の内容としては、大阪府が整備している都市計画道路十三高槻線(正雀工区)の地下10mに、現場の地盤に合わせて特注で製作したシールドマシンを使って直径2.8m・全長580mのトンネルをつくっていくというもの。東京都や大阪市などの大都市を除けば、直径2.8mの下水道管は比較的大きな規模です。今回使用しているのは泥土圧式シールドマシンで、先端にあるチャンバーという箇所が切り崩した泥土で常に密閉されています。チャンバー内に泥土で圧力をかけ、掘っている箇所で土が崩れてこようとする圧力と均衡させることで掘り進む仕組みで、掘った後はセグメントという材料を組み立てて壁面を固定していきます。掘り進められる距離は、24時間施工で1日に平均10m程度。13個の推進ジャッキで掘り進めています。計画の580mを掘り進めた後は大阪府の流域下水道に接続するほか、沿道の敷地内から汚水や雨水を引き込むための浅い下水道管も整備し、今回掘っている下水道管に接続する工事も合わせて行います。

<吹田市公共下水道事業 岸部幹線整備工事第1工区>
現状の吹田市の下水道管(青線)では大雨の際に雨水をすべて排水することが難しいため、大阪府が整備している都市計画道路十三高槻線の地下に、浸水被害の軽減を目的とした下水道管を整備。地下10mに直径2.8m・全長580mのトンネルを掘り進め、大阪府の流域下水道(黒線)に接続する。

スムーズに施工を進めるための
協議や調整が重要な役割。

上記のような実際の施工を進めるのは工事施工者のみなさんです。私は起業者として現場に週に2〜3回行き、工事の立ち会いや進捗の確認をするほか、工事施工者さんが工事に集中できるよう関係各所との協議や必要な申請を行う役割があります。この現場では大阪府の道路工事が同時に行われているため、お互いの工程を調整したり、他にも道路上で工事を行う際の警察への申請、ガスや電気といった地下にある他の埋設物に関わる企業との連絡や調整も行います。さらに、地域住民のみなさんへのお知らせを作成し、自治会長さんに説明に行くのも大切な仕事。必要であれば住民説明会も開き、工事の意味や意義を説明して理解を求めていきます。
工事施工者さんとは月に1回工程会議を行いますが、普段も話さない日はありません。スムーズに申請手続きを行うための連絡や、私の立ち会いが必要な工程についてのスケジュールの連絡、資料の確認の依頼など、さまざまなやりとりが毎日あります。若手からベテランの所長さんまで8人ほどいらっしゃり、それぞれ話す内容も違うので、その時々でふさわしいコミュニケーションの仕方を心がけています。

<泥土圧式シールド工法>
出発地点に「発進立杭」という縦穴を掘り、シールドマシンを設置。地中に向けて発進し、シールドマシンの前面にあるカッターで土を切り崩した後、その土をバッテリー機関車を使って運び、天井クレーンで地上に運び出す。掘った部分はセグメントと呼ばれる材料を組み立てて固定する。


限られた作業時間を
最大限に活用し、難所を突破。

この工事の最大の難所は、阪急京都線の線路の下を掘り進む過程でした。通常、終電から始発の間に作業を行うのですが、この現場は近隣にOsaka Metroの車両基地がある関係で終電後・始発前にも動きがあり、作業できるのは午前1時半〜3時半頃のわずか約2時間。一方で大阪府が整備している道路の開通時期に遅れてはならないという条件もあり、短い作業時間の中でできる限り掘り進める必要がありました。そこで終電が車両基地に入ってくるまでの間に準備だけはできるようにする、トンネルを掘った後のセグメント組み立て作業は始発の時間には含めないなど、少しでもトンネルを掘る時間を確保できるよう関係各所と協議を重ね、乗り切ることができました。2025年6月の工事完了をめざし、現在も工事が進んでいます。

<シールドマシンについて>
カッターで切り崩した柔らかい土にプラントで作った「泥」で圧力をかけ、崩れようとする地山とのバランスをとりながら堀り進みます。今回使用している直径2.8mのシールドマシンは現場の地盤(砂礫層)に合わせて特注で製作された。

市民に開かれた現場見学会で
下水道の意義や必要性をアピール。

近年、国全体で「水道と下水道の見える化」が進められており、私たち吹田市としても下水道の意義や必要性についての広報活動に力を入れています。その一環として、この現場で2023年9月に現場見学会を行い、市民のみなさんはもちろん、吹田市役所職員や他の自治体の職員の方にも来ていただきました。
特に市民見学会ではトンネル内の見学ツアーを行ったほか、子ども向けの体験コーナーとしてトンネルの壁面になるRCセグメントへのお絵描きや、バックホウの運転席での記念撮影会などを用意。「はたらく車」が好きな子どもたちも、普段は乗ったり触れたりする機会はなかなかないので、できるだけ開かれた見学会にして土木に興味を持ってもらいたいという思いがありました。
私は地元の自治会や小中学校への周知のほか、各種SNSと市のHPと市報でのPRも行い、体験コーナーの準備や、市民向けの説明用動画の制作、人員配置の計画などあらゆる準備を行いました。しかし準備を頑張りすぎた結果、イベント当日に体調不良で参加できなくなってしまって…。後日、当日に運営してくださった先輩から約1000人の市民が参加してくださり、子どももたくさん来てくれたことを聞いて、参加できなかった心残りはあるものの頑張って良かったと嬉しくなりました。

<現場見学会>
2023年9月に今回の現場で実施し、約300名という当初の想定を大幅に超える約1000人の市民が参加。トンネル内のツアーや子ども向けのバックホウ乗車撮影会などを実施し、土木や下水道の役割を多くの人に伝えられる機会となった。

重要なインフラの整備に携わり
地域の力になれるのが嬉しい。

私を含め平成以降に生まれた世代にとって、下水道は生まれた時から当たり前にあるものなので、その意義を改めて考えることはあまりないかもしれません。しかし、もし下水道がなければ、トイレやお風呂、台所などから出る生活排水の行き場がなくなって街に悪臭が漂い、雨が降るたびに浸水被害が起きるでしょう。下水道は目には見えませんが、実は普段の生活の中で最も重要なインフラといっても過言ではないのです。私自身も仕事を通じてこうした下水道の重要性を強く実感し、同時に、若い世代にもっと下水道の重要性を知ってもらいたいと考えるようになりました。今後はそういった活動もしていけたらいいですね。
吹田市では汚水用の下水道はほぼ普及しているものの、今担当しているような雨水対策はまだ道半ばといったところ。今回の工事によって、少しでも浸水被害を軽減できたら嬉しいです。今後は老朽化した下水道管の維持や耐震化も必要で、こうした重要なインフラ整備の力になれるところが土木の仕事のやりがいであり、魅力だと思います。

人々の暮らしの根幹を支える
大きなやりがいがある仕事。

土木の仕事というと、なんとなく「怖そう」というイメージをお持ちの方もいるのではないでしょうか。私も以前はそう思っていた時期もありましたが、実際に働いてみると、今はいわゆる昔気質な雰囲気はないと感じます。一般の人では見たり入ったりすることのできないような場所に行ける面白さがあり、なおかつ多くの人々の暮らしを支える大きなやりがいがある仕事です。ぜひ自信を持って土木業界を目指していただきたいと思います。

<騒音対策>
阪急京都線の線路下での作業を除き、トンネルを掘る作業は24時間行われる。そのため騒音が外に漏れないよう防音ハウスという小屋を建てて施工している。

吹田市

2020年4月1日に中核市に移行し、自治権限を強化。迅速で質の高いサービスの提供を主体的に進め、未来に向けた行政課題の解決に挑んでいる。
今回取材した下水道整備については「浸水被害のない安全で快適な都市」をめざし、雨水管建設や水路の補修、ポンプ施設の改築などを推進。「下水道の見せる化」のための広報活動にも積極的に取り組み、他の自治体からも注目を集めている。
吹田市WEBサイト:https://www.city.suita.osaka.jp/ 吹田市WEBサイト内「下水道」:https://www.city.suita.osaka.jp/kurashi/
1018541/index.html

2024年8月掲載

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